自己破産|国民健康保険税の減免申請

主文

1 北秋田市長が平成18年9月5日付けで原告に対してした平成18年度国民健康保険税の減免申請却下処分を取り消す。
2 被告は,原告に対し,6万円及びこれに対する平成19年8月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,これを50分し,その11を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

1 主文第1項と同旨
2 被告は,原告に対し,70万円及びこれに対する平成19年8月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

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第2 事案の概要

本件は,原告が,被告に対し,原告の平成18年度国民健康保険税の減免申請を却下した北秋田市長の処分が違法であるとして,この処分の取消しを求めるとともに,この処分,この処分に対する原告の異議申立てを棄却した北秋田市長の決定,北秋田市保健課職員らによるこの申請の不受理行為及び同市長,同職員らによる不必要な書類を提出するよう執拗に求める行為により精神的苦痛を被ったとして,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料及び弁護士費用並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 争いのない事実等(証拠等を掲げたもののほかは,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア被告は,国民健康保険法3条1項に基づく北秋田市国民健康保険の保険者であり,北秋田市国民健康保険税条例(以下「本件条例」という。)及び北秋田市国民健康保険税条例施行規則(以下「本件規則」という。)に基づき,世帯主を納税義務者として,各世帯ごとに算定した国民健康保険税(以下「国保税」という。)を賦課徴収している。
イ原告及び同人を世帯主として同人と同居しているその妻A,子B,母Cは,いずれも北秋田市国民健康保険の被保険者である。原告の子D及びDの子Eは,平成18年度当初,原告を世帯主として同人と同居し,北秋田市国民健康保険の被保険者であったが,同年度途中で,原告世帯から離脱して転出した。
(2) 国保税の減免に関する条例,規則及び取扱要綱の定め
被告においては,地方税法717条を受けて,国保税の減免について,本件条例19条において別紙1のとおり,本件規則において別紙2のとおり,それぞれ規定しており,さらに,これらに関して,別紙3のとおり北秋田市国民健康保険税減免に関する取扱要綱(以下「本件取扱要綱」という。)を定めている。
(3) 本件の経過等
ア北秋田市長(以下,単に「市長」という。)は,平成18年7月中旬,原告に対し,平成18年度国保税として17万4300円を課税した。
その後,子D,孫Eが原告世帯から離脱して転出したため,市長は,同年8月17日,原告に対する国保税課税額を12万3300円に変更した。
イ原告は,同年7月24日,北秋田市役所(以下,単に「市役所」という。)に赴き,本件条例19条1項1号に該当することを理由として全額免除を求める「国民健康保険税減免申請書」(乙14,以下「減免申請書」という。)に,同居する家族の氏名,年齢及び各人の収入(原告/農業/0円,子B/給与/149万1960円,母C/年金/23万6100円,子D/給与/96万円,妻A/0円,子の子E/小学生/0円)並びに原告本人の預貯金口座の有無及び預貯金額(JA北央/総合口座/12万円)を記載した「状況説明書」(乙15)を添付して,北秋田市職員(以下,単に「市職員」という。)に提出し,市長に対し,平成18年度国保税の減免申請を行った(以下「本件申請」という。)。
ウ市職員は,同年8月1日,原告宅を訪問し,原告に対し,既に受理した状況説明書について,原告以外の同居家族の預貯金口座の有無及び預貯金額を記載した別紙を追加して提出するよう求め,同居家族の収入状況(子Dの失業保険,児童扶養手当等)について質問するとともに,本件規則2条11号に定める「同意書」の提出を求めた。
これに対し,原告は,原告以外の同居家族の預貯金については同居家族に聞いて分かる範囲で後日届け出ることとし,同居家族の収入状況については把握している事実を答えたが,同意書の提出は拒否した。その後,原告は,同月7日,市役所に赴き,市職員に口頭で,子B及び子Dが預貯金口座を保有していることを報告したが,その金額については報告する必要がない旨述べた。
エ市長は,同月11日付け文書で,原告に対し,同月17日を期限として,状況説明書の「預貯金等の状況」欄について,原告以外の同居家族の分を記載し,その裏付書類を提出すること,子Dの失業保険の有無及びある場合はその金額を書面で申告することを求めた。
これに対し,原告は,同月16日,市役所に赴き,状況説明書の別紙として,「預貯金等の状況」欄に原告以外の同居家族の預貯金口座の有無及び預貯金額(子B/郵便局/郵便貯金/千円,子D/秋田銀行二ツ井支店/総合口座/2万円,母C/JA北央/総合口座/千円,妻A/なし)を記載し,子Dの失業保険の有無について(失業保険あり/給付はなし)記載したもの(乙30)を提出したが,その裏付書類の提出は拒んだ。
オ市長は,同月21日,地方税法707条1項に基づき,北秋田市内の金融機関等に対して,原告本人の預貯金口座の有無及びその残高を照会し,同月30日までの間に,あきた北央農業協同組合本店から同月末日時点での残高が43万円余りである旨,その他11カ所の金融機関からは原告名義の口座がない旨の回答を得た。
カ市長は,同月28日付け文書で,原告に対し,同年9月1日を提出期限として,状況説明書の「預貯金等の状況」欄の記載の裏付書類を提出するよう求めたが,原告はこれを提出しなかった。
キ市長は,同月5日付けで,「北秋田市国民健康保険税条例施行規則第6条の規定に基づき,判定のために必要とする書類の提出を求めたところですが期限までに提出がなく,現在の状況では審査,判定をすることができません。」(乙34)という理由により,本件減免申請を却下した(以下「本件処分」という。)。
ク原告は,同年10月6日,本件却下処分が違法であるとして,同市長に対し,異議申立てをしたが,市長は,平成19年1月12日付けで,「本件にあっては提出書類中の預貯金等記載欄に不明な点があり,確認のため規則第6条に基づき求めた必要書類の提出もなかったため審査並びに判定の対象とならないものと判断し,申請を却下するものである。」「本件異議申立ては理由がない」(乙39)という理由により,異議申立てを棄却した(以下「本件決定」という。)。
2 争点
(1) 本件処分の違法性
(2) 国家賠償法1条1項に該当する事実の存否
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件処分の違法性)について
(原告の主張)
本件規則3条1項柱書の文言によれば,本件申請の許否を判断するためには,本件規則3条1項1号のイに該当するか否かの調査・判定のみで足りる。
原告は,前記争いのない事実等記載のとおり,状況説明書等を提出しており,市長は,これによって,原告及びその同居家族の氏名,年齢及び各人の収入を把握でき,原告が本件規則3条1項1号のイに該当することを認定できたのであるから,本件申請を承認すべきであった。
市長は,減免判定のために必要な書類の提出がなく判定できないことを理由として本件申請を却下する本件処分を行ったが,地方税法707条1項において,徴税吏員は,納税義務者等に対しては帳簿書類等の検査及び質問ができると定められているのに対し,納税義務者等以外の者で当該税等の賦課徴収に関し直接関係があると認められる者(以下「納税義務者以外の関係者」という)に対。しては質問のみができると定められているのであるから,納税義務者でない同居家族に対する検査を強制的に行うことはできない。
本件において,原告以外の同居家族の預貯金通帳の写しなどの提出を求めることは,納税義務者以外の関係者に対する検査に当たり,この提出を強制することは同法に違反するものであり,また,原告以外の同居家族の預貯金通帳の写しなどを任意に提出しないことを理由として本件申請を却下することは,実質的にこの提出を強制する結果となるから,これもまた同法に違反するものである。したがって,本件処分は違法である。
なお,原告の平成18年7月末日段階での預貯金額が約43万円であったのは,農業を営んでいる原告の預金口座に出荷先から農作物の売上金が振り込まれたためであり,原告が本件申請を行った同月24日時点での残高は,原告が状況説明書に記載したとおり10万円台であった。
(被告の主張)
本件規則3条2項において,徴収猶予及び納期限の延長を行ってもなお担税力がないと認められるものについて国保税の減免ができると定められているのであるから,本件申請の許否を判断するためには,原告主張の要件のほか,かかる担税力の有無についての調査・判定も必要である。
原告は,状況説明書に原告の預貯金額を12万円と記載したが,この裏付書類を提出しなかったため,同市長は,地方税法707条1項に基づき,原告の預貯金口座の有無及び預貯金額を調査した。すると,原告の平成18年7月末日時点での預貯金額は約43万円であり,原告が状況説明書に記載した12万円をはるかに上回るものであった。
そのため,原告に担税力がないと認定するには疑問があった。
また,原告は,状況説明書に原告以外の同居家族の預貯金口座の有無及び預貯金額を追加して記載したが,この裏付書類を提出しなかった。
そのため,被告は,本件規則6条2項の「必要な書類」に該当するものとして,同居家族の預貯金通帳の写しなどの提出又は提示を求めたが,原告はこれを提出・提示せず,さらに,被告は,被告が自ら裏付書類の提出を金融機関等に対して求められるよう,「同意書」の提出を求めたが,原告はこれを提出しなかった。
これらの結果,原告の担税力の有無に疑問が生じた状態のままとなったため,本件申請を却下する本件処分を行った。
(2) 争点(2)(国家賠償法1条1項に該当する事実の存否)について
(原告の主張)
前記のとおり,市長は,本件申請を承認すべきであったにもかかわらず,本件条例及び本件規則の解釈・適用を誤り,違法に本件申請を却下する本件処分を行い,これに対する異議申立てに対しても,違法にこれを棄却する本件決定を行った。
また,市職員らは,本件条例及び本件規則の解釈・適用を誤り,前記争いのない事実等(3)イの際,当初,「同意書」を添付しないと申請書類として不備があるため受理できないと言って原告の提出しようとする減免申請書及び状況説明書を受け取ろうとせず,原告は,受理されるまで約3時間にわたり減免申請書等の提出を市職員らによって妨害された。
その後も,原告は,市長及び市職員らから,前記争いのない事実等(3)ウ,エ及びカ記載のとおり,同意書等の不必要な書類を提出するよう再三求められた。
これらにより,原告は,本件処分が取り消されただけでは回復されない精神的苦痛を被ったのであり,その慰謝料は50万円を下らない。
また,本件訴訟提起のための弁護士費用は20万円を下らない。
(被告の主張)
いずれも争う。
前記争いのない事実等(3)イの際,原告の状況説明書の「預貯金口座の有無及び預貯金額」欄には原告本人の分しか記載されておらず,同居家族の分についての記載が漏れていたため,市職員が,原告に対し,口頭で,これを補筆するよう求めた。
また,状況説明書の記載内容の裏付書類(原告及び同居家族の預貯金額を確認できるもの)の提出がなかったため,これを提出するよう求めた。さらに,裏付書類を原告自らが収集して提出す
ることができないのであれば,市長が金融機関等に報告を求めることに同意する旨の「同意書」を提出するよう求めた。

第3 当裁判所の判断

1 争点(1)(本件処分の違法性)について
(1) 本件条例及び本件規則における減免の実体的要件
地方税法717条において「地方団体の長は,(中略)当該水利地益税等を減免することができる」と定められており,これを受けて制定された本件条例19条1項においても「市長は,(中略)国民健康保険税を減額し,又は免除することができる」と定められていることに照らすと,国保税を減免するかどうかについては,市長の合理的裁量が働く余地があるのであって,減免申請者が本件規則3条1項1号のイに該当して本件条例19条にいう「必要と認める者」に該当するとしても,そのことによって直ちに国保税が減免されなければならないとは解されず,市長の合理的裁量を画する基準として,本件規則3条2項に該当することも必要であるとの要件を設けたとしても,本件規則が地方税法及び本件条例の規定に反するとは解されない。
結局,本件条例及び本件規則を合理的に解釈すれば,減免申請を承認するか否かの判断に当たっては,減免申請者が本件規則3条1項1号のイに該当するか否かの判定のほか,減免申請者が本件規則3条2項に該当すると認められるか否かの判定も必要であるということになる。
さらに,当事者の主張からは明確ではないが,本件規則2条4号,6条1項,本件取扱要綱4条3号,8条の定めからすると,被告においては納税義務者及び同居家族の保有資産の有無及びその多寡も減免の判定に当たって考慮すべき要素とされていることがうかがわれるところ,市長の合理的裁量の範囲内である限り,上記本件規則3条1項1号イ該当性及び本件規則3条2項該当性以外にこのような要素(保有資産の有無等)を考慮して減免するかどうかを判定することも違法ではないと解される(ただし,このように保有資産の有無等を考慮要素とするのであれば,本来,条例及び規則において,そのことが明確かつある程度具体的に規定されるべきである。
なお,被告は,本件規則3条2項該当性及び保有資産の有無等を合わせて「担税力」と称しているものと思われる。)。
(2) 本件条例及び本件規則における減免の実体的要件の有無の判定のための調査と地方税法707条との関係
前記争いのない事実等(3)キ記載のとおり,市長は,提出を求めた書類が提出されないことを理由として本件処分をしているところ,一連の経過に照らせば,ここでいう「提出を求めた書類」は,前記保有資産の有無及びその多寡の要件について,同居家族の預貯金額を裏付ける書類(同居家族の預貯金通帳の写しなど)を指すものと思われる。
そして,原告の主張するとおり,地方税法707条1項において,納税義務者以外の関係者に対しては質問のみができると定められているのであるから,本件条例及び本件規則において納税義務者とされていない同居家族の預貯金通帳の写しなどの提出・提示を求めることは,納税義務者以外の関係者に対する検査に当たり,これを強制的に行うことは許されず,また,同居家族の預貯金通帳の写しなどを任意に提出・提示しないことのみを理由として減免申請を却下又は不承認とすることは,実質的にこれらの提出を強制する結果となるから,これもまた許されないと解すべきである。
この点について,被告は,本件規則6条2項の「必要な書類」に該当するものとして同居家族の預貯金通帳の写しなどの提出を求めたと主張するが,地方税法707条の規定にかんがみれば,これを求めることは,あくまで同居家族が任意に応じる限りにおいて可能であるに過ぎないから,上記のとおり,任意提出されないことのみを理由として減免申請を却下又は不承認とすることは許されない。
(3) 本件処分の違法性
被告は,原告の担税力の有無に疑問が生じた状態のままとなったため本件申請を却下した旨主張するが,担税力がないことは減免の実体的要件であって,原告の担税力の有無を検討することは減免申請を承認するか不承認とするかの判断にほかならない。
すなわち,裏付書類は減免の実体的要件の有無を判断する資料として必要とされているのであって,市長は,その書類が申請者から提出されないのであれば,それが提出されないことを前提に,地方税法707条等を根拠として自ら強制的に収集しうる資料に基づいて,申告者の申告内容に誤りがないかどうかを判断し,申請を承認するか不承認とするかを決定するほかないのであるから,納期限7日前までに減免申請書及び状況説明書を提出する(本件規則19条2項)などの形式的要件が満たされている本件において,裏付書類が提出されず,担税力の有無が明らかでないとして減免申請を「却下」することは許されない。
また,同居家族の預貯金額を裏付ける書類を提出しないことのみを理由として申請を却下又は不承認とすることは,前記(2)記載のとおり地方税法707条の趣旨に反し許されない。
これらによれば,原告が同居家族の預貯金額を裏付ける書類を提出せず,そのため担税力の有無が明らかでないとしてされた本件処分は,地方税法,本件条例及び本件規則の解釈を誤ったものといわざるを得ないから,違法である。
したがって,本件処分は取り消されるべきである。
2 争点(2)(国家賠償法1条1項に該当する事実の存否)について
(1) 市長が本件処分及び本件決定をしたことの違法性及びその程度
ア前記1の争点(1)に関する判断の(2)及び(3)に述べたところに照らすと,市長は,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしていれば,本件処分時に,本件処分が地方税法,本件条例及び本件規則の解釈を誤るものであることを容易に認識できたというべきである。
本件決定も本件処分と同様の理由でされたものであるから同様である。
これによれば,市長が本件処分及び本件決定をしたことは,職務上の注意義務に違反するものとして国家賠償法1条1項の適用上違法なものであり,市長に過失があることも明らかであるから,被告には,本件処分及び本件決定によって原告が被った損害を賠償すべき責任があるというべきである。
イこの点,被告は,原告本人の保有資産についての申告に誤りがあり,これと同居家族の預貯金額の確認ができないことが相まって,原告の担税力の有無に疑問が生じた状態のままとなったため,本件処分を行ったとも主張しており,この主張は,原告の本件申請が実体的要件を満たしておらず,却下でなくとも不承認とされていたのであるから違法性の程度は低いとの趣旨とも解される。
これに対し,原告は,本件申請は承認されるべきであったから,違法性の程度は高いと主張しているので,実体的要件に照らして本件申請が承認されるべきであったのか否かについて検討する。
(ア) 減免可否の判断基準及び判断手順
本件条例及び本件規則における減免の実体的要件は前記1の争点(1)に関する判断の(1)記載のとおりであり,これに関して本件取扱要綱8条は,別紙3のとおり判断基準を規定しており,この判断基準は相当であるから,これに従って以下検討する。
なお,減免の許否を判定するに当たっては,申請者の状況説明書による申告内容が適正であるかどうかを裏付資料に基づき判断していくことになるが,その判断に際しては,収入金額並びに預貯金及び現金等の保有資産について,申請者が申告した金額が現実に存在することを裏付資料で確認するという視点ではなく,申請者が申告した金額よりも多くの収入及び保有資産が存在しないかどうかという視点で調査すべきことを付言する。
(イ) 本件申請における減免の実体的要件の有無
前記争いのない事実等及び後記(2)ア記載のとおり,原告は,原告及び同居家族の氏名,年齢,各人の収入の種類及びその額を記載した状況説明書と給与収入を得ている世帯員の給与明細を市職員に提出していたのであり,これらによれば,原告世帯の生活保護法による保護基準をおおむね把握でき,状況説明書に記載された子B及び子Dの給与収入の額を確認できる。
原告の農業収入がゼロであること,妻Aの収入がないこと及び母Cの年金収入の額については,特に裏付書類が提出されていないが,原告の農業収入がゼロであることについては,後記のとおり,本件申請受理時に農業収入の推計方法について原告と市職員との間で若干のやりとりがされたほかは,その後被告側でこの点に関する調査をした形跡がうかがわれず,妻Aの収入がないこと及び母Cの年金収入の額については,その後被告側で何ら調査をした形跡がうかがわれないことからすると,これら3点については,原告の状況説明書の記載を超える収入はないものと思われる。
また,徴収猶予又は納期限の延長を行えば原告が国保税を支払うことができる事情(例えば,今年度の原告世帯の収入が前年度より大幅に減少し,来年度は前年度程度に回復する見込みであるなど)があることは,減免申請書及び状況説明書の記載内容から特段うかがわれず,被告側の調査においても,このような事情の有無は特段問題とされていない。
次に,預貯金等の保有資産の有無について,原告の預貯金については,前記争いのない事実等記載のとおり,原告が預貯金口座の有無及び預貯金額についてJA北央の総合口座に12万円と記載した状況説明書を提出していたところ,原告はこれを裏付ける書類を提出しなかったため,市長は,前記争いのない事実等記載のとおり,北秋田市内の金融機関等に対して残高を照会し,あきた北央農業協同組合本店から平成18年7月末日の残高が43万円余りである旨,その他11カ所の金融機関からは原告名義の口座がない旨の回答を得ている。
これについて,被告は,原告が状況説明書に記載した12万円をはるかに上回るものであったため,担税力に疑問があった(預貯金等の保有資産によって国保税を支払うことが可能である可能性があったという趣旨と思われる)と主張するが,原告が農業に従事していること,原告の保有する預金口座が農業協同組合のものであること,原告がこれ以外に預貯金口座を保有していないこと,原告の本件申請から残高照会の基準日まで約1週間の期間が経過していることからすれば,原告が本件申請時に申告した残高と照会結果の残高に約30万円の開きがあったとしても,直ちに原告の申告が預貯金を隠ぺいしているものなどと疑うのは相当でなく,市長は,原告に対する質問権を適切に行使することなどによってこの約30万円の開きが生じた理由を原告に釈明させるのが相当であり,被告側が質問権行使等により,農作物の売上金が振り込まれたため残高が増加したものであることを把握していれば,その事情を前提として減免の可否を判断することができたと思われるが,被告側がこれを行った形跡はうかがわれない。
さらに,同居家族の預貯金口座の有無及び預貯金額については,前記争いのない事実等記載のとおり,原告はこれを記載した状況説明書の別紙を提出したが,これを裏付ける書類を提出しなかった。
したがって,市長は,原告の記載した状況説明書の別紙の記載内容に誤りがないかどうかを裏付書類に基づいて判断することはできなかったが,前記のとおり,同居家族の預貯金口座の有無及び預貯金額の裏付書類は強制的に提出させることはできないのであるから,原告の記載した状況説明書の同居家族の預貯金口座の有無及び預貯金の記載内容が過小であるのかどうかは,任意に提出された裏付書類がある場合にはこれに基づき,裏付書類が任意に提出されない場合には,必要に応じて原告及び同居家族に対する質問権を行使することによって,判断するほかない。
なお,収入金額並びに預貯金及び現金等の保有資産の調査は,申請者が申告した金額よりも多くの収入及び保有資産がないかどうかという視点で行うべきものであり,申請者が申告した金額が現実に存在するか否かを裏付資料で確認するというものではないのであるから,状況説明書の別紙に記載された預貯金額それ自体をその口座の通帳のコピー等によって確認しなければならない必然性はない。
そして,本件において,市長は,同居家族の預貯金に関して,原告及び同居家族に対する質問権の行使を行った形跡はうかがわれず,また,状況説明書の別紙記載の金額以上に同居家族の預貯金が存在することもうかがわれない。
以上を総合して考慮すると,上記のとおり明確でない点もあるものの,被告側が試算した乙22号証のとおり,原告世帯(子D及び同人の子Eを含めた6名)の最低生活費が約320万円であるのに対し,原告世帯(上記6名)の収入は約139万円なのである(なお,この試算は原告の預貯金額が約12万円であることを前提として,預貯金額を収入に含めたものである)から,原告世帯の収入は最低生活費を相当下回っているというべきで,生活困窮の度合いは高かったといえるし,また,原告及び同居家族の預貯金等を合計しても原告世帯の保有資産は45〜46万円程度であったことからしても,担税力は乏しかったというべきである。
(ウ) そうすると,全額免除を求める本件申請は承認されるべきであったと認めるのが相当であり,これによれば,市長が本件処分及び本件決定をしたことの違法性は高いというべきである。
(2) 同意書等を提出するよう求めた行為の違法性及びその程度
ア証拠(甲2,3,乙18,46,50,証人F,証人G,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
本件申請の際,原告は,原告以外の国保税減免申請者ら及び原告が加入している「北秋田生活と健康を守る会」(以下「守る会」という。)の役員G,守る会会員Hらとともに,平成18年7月24日午前10時過ぎころ,市役所に赴いた。原告の本件申請の受理は,当時市生活部保険課長であったFが担当した。
原告が前記争いのない事実等(3)イのとおり記載された減免申請書及び状況説明書を提出したところ,これを閲読した上で,Fは,原告に対し,状況説明書の「預貯金等の状況」欄に同居家族の分が記載されていないので,これを補筆するよう求めるとともに,減免許否審査判定のため必要であるから,状況説明書の「家族及び収入の状況」欄及び「預貯金等の状況」欄の記載内容を証明する書類を添付するよう求めた。
しかし,原告は,原告本人以外の預貯金等の状況については個人情報であるから記載する必要がない旨述べて,これを補筆しようとせず,状況説明書の記載内容を証明する書類も提出しようとしなかった。
そこで,Fは,原告が同意書を提出すれば,その同意に基づき市長が状況説明書の記載内容に誤りがないかを調査することができる旨説明し,同意書の提出を求めた。
しかし,原告は,同意書に署名押印することを拒んだため,Fは,同意書を提出するよう繰り返しその必要性を説明した。
その後,原告は,G及びHとともに,同意書はプライバシーの観点等から問題があるので提出できないなどと述べ,同意書も状況説明書の記載内容を証明する書類も添付しないままで減免申請書及び状況説明書を受理するよう働きかけたが,Fは,あくまで,原告の減免申請書及び状況説明書のみでは申請書類として不備があるため現状のまま受理することはできない旨述べ,本件規則において同意書の様式が定められており,本件取扱要綱において同意書が申請書類として定められているのであって,減免許否を公平適正に判断するため必要であるから,原告はこれを提出する必要があることを繰り返し述べた。
その間,Hが,机を叩いて大声を出し,減免申請書を受理するよう強く求めたり,原告以外の減免申請者らが,原告の減免申請書を受理するよう口々に求めたりしたことがあった。
このようなやりとりの末,原告らが市役所に到着してから約2時間後,Fは,原告の補筆等がなされないままであるが,後日補筆及び状況説明書の記載内容を証明する書類の提出をするよう指導した上,とりあえず減免申請書及び状況説明書を受理することとし,その後,原告と,同人の平成18年度の農業所得の推計方法に関してやりとりをした上,原告らが市役所に到着してから約3時間後,ようやく原告の減免申請書及び状況説明書を受理した。
同日又は翌25日,原告は,市職員に,状況説明書の記載内容の裏付書類として,給与収入を得ている同居家族(子B及び子D)の給与明細(乙16,17)を提出した。
イ前記争いのない事実等及び上記認定事実に対する評価
原告は,本件申請に際し,原告及び同居家族の預貯金口座の有無及び預貯金額の裏付書類を提出していないが,これらの書類は状況説明書の記載内容が過小でないかどうかを判断するための資料として不必要とはいえないものであり,公平適正な減免審査判定を目的として,これらを提出するよう求めた市職員及び市長の行為それ自体は,いずれも違法とはいえない。
しかし,原告がこれらを提出しないため被告側が原告に提出を求めた同意書は,本件規則2条11号においてその様式が定められているものであって,その本文は「私は,国民健康保険税の減免申請にあたり,減免の決定又は減免申請の内容を確認する調査のために必要あるときは,私及び世帯員全員の収入や資産等の状況につき,官公署に調査を委託し,又は銀行,信託会社,私若しくは世帯員全員の雇い主,その他関係人に報告を求めることに同意します。」というものであるが,仮にこのような同意書を世帯主である原告が提出したとしても,それは原告の同居家族が本人の収入や資産の調査に同意したものではないから,これを根拠として原告の同居家族の収入や資産に関して銀行等に報告を求めることはできないと解される。
そうすると,そもそも,同居家族の収入や資産の調査に関してこのような様式の同意書の提出を求める行為は,無意味である。そればかりか,本件取扱要綱5条は,申請者に対し,上記本件規則2条11号の様式の同意書の添付を義務付けているが,地方税法707条にかんがみれば,納税義務者とされていない同居家族の収入や資産に関して銀行等に報告を求めることは,納税義務者以外の関係者に対する検査に当たり,同居家族の任意の同意なくして行い得ないものであり,たとえ,上記のとおり,上記同意書の様式が世帯主が同意する内容であり,これが提出されたからといって同居家族の収入や資産の調査に関して何の効力もなく無意味であるとしても,本件規則2条11号や本件取扱要綱5条を根拠に上記同意書の添付がないことをもって申請を受理しないことは,地方税法707条に反するというべきであり,許されるものではない。
上記のことは地方税法707条から容易に導かれる結論であり,市職員は,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしていれば容易にそのことを認識することができたということができる。
しかるに,市職員は,原告側が頑なに拒否しているのにもかかわらず,本件規則2条11号や本件取扱要綱5条に固執して,上記同意書の提出を求め続け,約2時間にわたり原告の減免申請書及び状況説明書を受理しなかったのであるから,最終的には原告側の粘り強い要求を受け入れて上記申請書等を受理したとはいっても,それまでの間に原告に軽視できない精神的苦痛を与えたことは否定できないところであり,さらに,市職員は,前記争いのない事実等( )ウ3 記載のとおり,上記申請書等を受理した後も再度同意書の提出を求めており,これもまた原告に軽視できない精神的苦痛を与えたことは否定できない。
これらによれば,上記のような市職員らの行為は,公務員の職務上の注意義務に違反するものとして国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける程度に達しているといわざるを得ず,当該市職員らに過失があることも明らかである。
(3) 損害及び損害との因果関係
以上によれば,本件処分及び本件決定が地方税法,本件条例及び本件規則の解釈を誤ったものであることは明白であり,市長がその当時そのことを容易に認識できたといえること,本件申請が承認されるべきであったことに照らせば,市長が本件処分及び本件決定をしたことの違法性が高いといえること,本件申請時の市職員の行為によって原告が受けた精神的苦痛も軽視できないことなど本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると,上記(1)及び(2)の一連の経過によって原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料の金額としては5万円が相当であると認められ,上記各行為と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は1万円が相当であると認められる。
3 結論
以上の次第であるから,原告の請求のうち,被告に対し,本件処分の取消しを求める部分,並びに国家賠償法1条1項に基づき損害賠償として6万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成19年8月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
なお,仮執行免脱宣言については必要がないのでこれを付さないこととする。

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